アグリ  分析機器用ガラス加工専門会社
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これだけは知っておきたい

物理化学的機器で使用するガラスの特性

1)ガラスの一般的な特性

ガラスの成分・組成と膨張率・軟化点

物理化学的機器測定で使用されるガラスの成分・組成の概略

膨張率

粘度・温度特性

広義の耐熱ガラス(軟化点の高いガラス)

シリカ(SiO2)成分からなる代表的な石英ガラス、バイコールガラス(高ケイ酸ガラス)

0.5×10-6deg-1

軟化点

約1,500℃

以上

一般的な耐熱ガラス(急熱、急冷に耐えるガラス)

膨張率を大きくするアルカリ成分の寄与を少なくするためホウ酸塩(xMT2O¥yB2O3¥zH2O)を含有する。

3×10-6deg-1

軟化点

約500℃

事例

パイレック®ガラス

SiO2:B2O3:Al2O3:Na2O=81:13:2:4 注2)

3.3×10-6deg-1

軟化点

約800℃

注1)

徐冷点:約550℃歪点 :約500℃

i)石英及びガラスを構成するシリカの表面は、空気中のガス等を吸着する。したがってセルの洗浄後に速やかに使用する。また、セルの長期保存は、蒸留水などの中で保存する。

ii)石英及びガラスは、一般に有機溶媒及び水溶液には耐性がある。しかしフッ酸、強リン酸で腐食する。また、アルカリ水溶液では、短時間内で使用する。

  • 限界使用温度は約500℃及び常用最高温度は約230℃付近にあることを意味する。
  • 蒸留水、酸及びアルカリ耐性の目安

蒸留水に対するガラス表面重量損量:約0.001 mg/cm2(100℃, 6時間)

5% HCLに対するガラス表面重量損量:約0.005 mg/cm2(100℃, 24時間)

5% NaOHに対するガラス表面重量損量:約1 mg/cm2(100℃, 6時間)

2)ガラスの光学的特性

2-1)ガラスの種類と光の透過率

  石英及び硬質ガラスとも天然物素材であるためその透過率は素材純度、厚さにより異なる。

「相対的ガラス透過率−波長特性図」は、相対的な透過率の目安を示す。

 

  • 合成石英:高純度石英ガラス

170 nmの遠紫外部から2μmの近赤外部まで使用可能で無蛍光材質。

  • 石英:光学用石英ガラス

200 nmの紫外部から2.5μmの近赤外部まで使用可能な材質。

  • 理化学用硬質ガラス(事例;パイレックス®ガラス)

主に可視部領域(320nm〜2.5μm)の測定に使用。

 

2-2)ガラス管のサイズ精度

一般的なガラス管のサイズ規格の事例

ガラス管外径

 外径公差

  肉厚

 肉厚公差

 規格;  5 mm

  0.2 mm

  0.8 mm

  0.1 mm

 規格; 10 mm

  0.2 mm

  1.0 mm

  0.1 mm


3)ガラスに対する電気的特性

電気スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)測定では、なぜ石英製の試料管を使用しなければならないか?

 ESR測定時に石英製の試料管を採用する理由

  • 不純物が少ないことことによりスペクトルのベースラインが一定となる。
  • マイクロ波に対する誘電損失が小さいことから検出感度が向上する。

ESR装置で使用される電磁波は、Xバンド:9,400MHz付近(波長:約3 cm)の高周波(マイクロ波)である。

ESR現象は、hν =gβHの共鳴条件下で観測される。

h:Plankの定数(6.626×10-34Js

ν:共鳴周波数(約9,400MHz)

g:g値(常磁性種特有の値:自由電子の値は2.0023)

β:Bohr磁子(9.274×10-24JT-1

H:共鳴磁場(約0.33T:3,300 gauss)

(1) ガラスに含まれる鉄を中心とする不純物

ESRの測定対象成分は、不対電子状態を持つ物質である。したがって遷移金属(V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuなど)の内で不対電子状態のイオンが測定の対象となる。

 硬質ガラス等の普通のガラスは、鉄の含有率が高いためESR測定では、ブロードな強いスペクトルを示す。そのためESR測定で使用される試料管は、高純度シリカ製の合成石英が使用される。

代表的な石英ガラスのおよその不純物含有率の比較              単位:ppm

Al

Li

Na

K

Ca

Li

Fe

Mg

Mn

Cu

石英

15

1.6

0.8

0.6

0.6

0.5

0.2

0.1

0.05

0.02

合成石英

                     < 0.01

(2)誘電損失

ESR測定において設置される試料(試料管)の位置は、前記共鳴条件(hν =gβH)を効率的に満足させるため共振器(ESRキヤビティ)内の電磁波(マイクロ波)分布において、磁場強度が高く、電界強度が低い場所である。

 すなわちESR現象は、「電界」と「磁界」で構成される電磁波の内、磁界の共鳴現象に基づくものである。しかしESR測定原理は、共振器(ESRキヤビティ)内に蓄えられたマイクロ波のエネルギー量(一般には「CavityQ」値で示される)が共鳴現象により変化する量をスペクトル化する方法である。したがって試料をセットした段階(共鳴条件外)で試料及び試料管に起因する「電界」に基づく「誘電損失」があると「CavityQ」値が低下することになり、結果として共鳴条件下での検出感度の低下となる。

ガラスに対する誘電損失は、一般的なガラス特性を比較する際の基準周波数:1MHz( 20℃)では石英と硬質ガラスとも非常に小さく大差がない。しかし、高周波領域では、周波数に依存に依存する。

ESRで使用される周波数帯(10,000MHz付近)での硬質ガラスの誘電損失(εtanδ)は、石英ガラスの値0.0019に比べ10倍以上大きい。

物理化学的機器測定で使用されるガラスの誘電体の損失係数(Loss factor)及び誘電損失

代表的な石英ガラスと硬質ガラスの電気的特性の比較

成分・組成百分率

周波数:3,000MHz 注3)

(波長:10 cm ) 

    ESR周波数

周波数:10,000MHz

(波長:3 cm )

誘電率

ε

誘電正接

tanδ

誘電損失

εtanδ

誘電率

ε

誘電正接

tanδ

誘電損失

εtanδ

石英ガラス

 シリカ(SiO2):100%

3.78

0.00025

0.00095

3.81

0.0005

0.0019

耐熱ガラス

主成分;シリカ+ホウ酸塩

SiO2 

B2O3

Al2O3

L2O

69 

28

2

2

4.7

0.0022

0.0089

4.20

0.0026

0.0109

SiO2

B2O3

Al2O3

Na2O

K2O

40

35

10

2

3

5.06

0.0043

0.022

5.06

0.0068

0.034

Ref. L.Navias, R.I.Green, Jour.Amer.Ceram. Soc., 29, 267-276 (1946)

  • 調理用電子レンジに使用されている周波数:2,450MHz

成分・組成百分率

一般的ガラス特性比較基準周波数

周波数:1MHz, 20℃

(波長:300 m;ラジオ波帯) 

誘電率

ε

誘電正接

tanδ

誘電損失

εtanδ

石英ガラス

 シリカ(SiO2):100%

3.6

1.2 x 10-4

4.3x10-4

事例

パイレックス® 

SiO2

B2O3

Al2O3

Na2O

K2O

Fe2O3

81

13

2

4

0.04

0.03

4.6

3.7 x 10-5

1.7x10-4


ESRで使用されるマイクロ波の電気的特性に関する基礎知識

マイクロ波は、「電界」と「磁界」で構成され、両者が高速で振動しながら伝搬する。両者を分離することは出来ない。

マイクロ波は誘電体媒質の中では波長が短縮する。振動数は不変であるので伝搬速度は低下する。

       C=λ・ν

C:光の速度(2.997925×1010cm/sec )

λ:波長 ( cm )

ν:振動数

誘電体とは、

 直流からの電気を通す材質

 誘電率を有する媒質

導電率:σ

 電導率のある媒体中では、マイクロ波はジュール損により減衰する。その減数の程度を示す量(その損失分が発熱)。

誘電率:ε

電場を加えた時、物質内での電場の減衰の程度を示す量

誘電正接:tanδ (δ:誘電損失角)

 誘電正接:tanδが大きい時、電気的共振回路のQ値(共鳴の鋭さを表す)は低くなり、発熱の原因となる。

誘電損失:εtanδ (誘電率×誘電正接)

  • 誘電体を構成する分子の双極子(dipole)がマイクロ波の電界により振動し、マイクロ波と分子双極子間の電界位相差に相当する。
  • 双極子回転の緩和現象によって生じ、周波数、物質の温度等などで変化する。
  • ホウ酸塩:B2O3等の添加により小さくなる。

 ジュール熱と誘電損の発熱は分離出来ない。マイクロ波領域では、誘電損が主な発熱となる。

参考資料

電子レンジ(2,450MHz)等のマイクロ波による加熱は、この原理を使用してマイクロ波に対してtanδ値の大きい水 ( tanδ= 0.16,ε=77, 25℃ )の加熱に対して適用される。

氷(tanδ= 00009,ε=3.2,−12℃)の値は、水に比べて非常に小さいので、マイクロ波による氷の直接加熱(融解)には適さない。